森恩(厚生労働省)「2040年に向けた地域医療構想について」
位置づけが変わった
- これまでの地域医療構想は、医療計画の中で5疾病6事業と横並びの一項目だった。
- 新たな構想は、まず2040年に向けた日本の医療の姿を考える「前提」であり、それを実行する計画として医療計画を作る、という順番に変わった。ガイドラインでも、構想の策定(2026〜2028年度)の次に第9次医療計画(2029年度頃)が来る。
- 「ここの取り組みがよいので横展開してください」はもう通用しない。地域ごとに課題が違うので、各地域が住民と一緒に「うちの地域に必要な医療」を考える。
2040年に何が起きるか
- 85歳以上の人口は2035〜2040年頃にピークとなり、その後も高い水準のまま続く。
- 85歳以上の6割近くが要介護。一人では病院に行けない人に、医療をどう届けるか(来てもらうのか、こちらから行くのか)が問われる。
- 救急搬送はすでに65歳以上が半分以上を占め、2040年に向けてさらに増える。要介護認定が増えるので、訪問診療の需要も増える。
- 生産年齢人口はほぼすべての地域で減るので、医療従事者の確保が問題になる。AIやロボットを取り込むことが求められる。
医療機関機能の決め方
- 構想区域を見直す → 必要病床数を出す → 各病院の医療機関機能(急性期拠点・高齢者救急・地域急性期・在宅医療等連携・専門等)を決める、という順に仕掛けを積んでいる。
- 機能は病院が自主的に選んで報告する。そのうえで調整会議で「データを見ると、先生のところは急性期拠点を担えるように見えないが」と確かめ合う。
- 「24時間手術できます」と言う病院は多いが、頻繁に手術している病院は思いのほか少ない(検討会の資料)。外科医1人・麻酔科医1人の病院では、手術中は次の患者を受けられない。本当に24時間対応するなら、1か所に集めたほうがよい。
高齢者救急こそが主役
- 高齢者救急というと骨折を思い浮かべがちだが、実際は肺炎などの感染症が多い。「意識が朦朧としているので頭だと思って運んだら、感染症の発熱だった」という例も多い。
- 必要なのは手術ではなく、早期の抗菌薬・適切な管理・早期のリハビリで、自宅や施設に早く戻すこと。「そちらをどんどん回していく」ことが求められる。
- 機能の一覧で一番上に「高齢者救急・地域急性期機能」を書いたのは、これが今から最も求められる機能だという国のメッセージ。
- 大学病院本院は「医育及び広域診療機能」として報告する。実際には急性期拠点として働いている大学病院もあるが、その場合も報告上のラベルは医育機能になる。
病床の数字
- 前回の構想の必要病床数119.1万床に対し、2025年の病床数は116.4万床で、一定の役割は果たした。
- 「回復期が足りない」と言われてきた。だが二次救急を受ける急性期病棟の中には、救急患者を治療して回復期の役割まで果たしている病棟が一定数ある。それが新しい「包括期」にあたる。
- 必要病床数の推計では、2013〜2014年の数字から線を引くともっと増えるはずだった。だが2025年の実績は増えなかった。その差(効率化の効果)を「改革モデル」として推計に織り込んだ。
- 外来はすでにピークを過ぎた。アクセスの確保が課題で、オンライン診療などの活用が要る。
- 今回から精神医療も地域医療構想の対象になる。
今村知明(奈良県立医科大学)「医療を取り巻く施策と病院の経営悪化の現状と今後」
需要減少社会への適応
- 2025年問題は「ここで終わり」ではなく「ここから始まり」。高齢者はもう増えないが、働く人は減り続ける。
- 少子化が加速している。団塊の世代は1学年およそ270万人だが、昨年生まれたのは約67万人で、200万人の差がある。5年ほど前の推計では出生数67万人は2040年頃の見込みだったのに、15年も早まった。
- 明治の頃に3,400万人ほどだった人口が、150年かけて増えた。これから100〜150年で、明治の水準近くまで減る見通し(数値は要確認)。「これから日本は壮大な撤退戦をしていかなければならない」。その医療側の答えが地域医療構想。
- 就労人口は20年余り前の約8,600万人から、2040年には約6,000万人へ、2,500万人減る。その間に高齢者はおよそ倍になる。
旧構想は何をしたのか
- 旧構想の本質は、急性期中心だった病床を回復期へ移す「病床機能分化」だった。
- 当時の政府資料は「入院が必要な150万人のうち、機能分化すれば30万人は家に帰れる」とした。医療区分1の7割は病院にいなくてよい、という意味で、全国で大混乱になった。
- 結果として医療区分1の入院患者は大きく減り(数値は要確認)、往診で何とかなる人は病院から出ていった。病床を増やさずに2025年を迎えた。
患者はどこへ行ったか
- コロナ前は、新入院患者が約1.5倍に増えた分を、平均在院日数を27日から16日へ縮めて吸収していた。同じ病床数で受け入れていた。
- コロナ禍で感染症が消えた(インフルエンザが2年間入ってこなかった)。新入院患者は約1,500万人から約1,380万人に減り、在院日数はほぼ変わらず、その分だけ稼働率が下がった。病床稼働率はコロナ前の76%から69%まで落ちた。
- その後、新入院患者は戻ったが、在院日数の短縮は続いた。そのため稼働率は76%に戻らず、病床は空いたままになっている。
- 入院が減った理由の一つが超過死亡。2022〜2023年頃は年140万〜150万人の死亡予測に対し、実際は年約160万人が亡くなった(3年間の超過数は、年あたりの差から見て30万人前後と考えられる。数値は要確認)。死亡前の1年には平均2か月ほど入院するので、病床3万〜4万床分、稼働率で3%ほどがこれで説明できる。
- 抄録は、ほかの要因として、在院日数の短縮・受療行動の変化・施設や在宅への移行・ACPの普及による救急搬送の減少も挙げている。
経営悪化と、ねじれた三位一体改革
- コロナの補助金がなくなると、病院の経営は一気に悪化した。病院の7割ほどが赤字で(数値は要確認)、今年度も厳しい見込み。
- 医師の働き方も変わった。「10年かけて消化器外科を目指した医師の数と、1年で美容医療に移った医師の数が同じ」という強烈な話もある(診療科名は要確認)。
- 病院の建替え費用が、この3年ほどで約2倍になった。1平方メートルあたり約50万円だったのが、いまは100万〜120万円(数値は要確認)。抄録には、建替えを断念する例が増えているとある。
- 構想区域の目安は人口20万人以上だが、二次医療圏の半分近くがすでに20万人を切る。急性期病床は今66万床あり、4割くらい減らしてよいのではないかというのが、ガイドラインの中で一番しんどいところ。
- 急性期拠点は人口20万〜30万人に1か所が目安。だが実際には、人口30万人ほどの区域で4つの病院が「うちが高機能病院だ」と言っている。1つに絞ると言えば、議論は終わらない。
- 2027年までに方針を決め、2035〜2040年に向けて実行する。
- 三位一体改革(地域医療構想・医師偏在対策・働き方改革)は並行して動いているが、互いに矛盾する。
- 例:秋田・山形の産婦人科医は、2040年には今の人数でも余る。だが今は足りない。増やすと将来あふれるので増やせない。かといって「死ぬほど働いてもらう」ことは働き方改革が許さない。
- コロナ禍では、医療に余力が要ると分かった。地域医療構想は効率を求める。効率と余力の両立を求められている。
- そもそも病院が潰れてしまえば何も始まらない、という状態が今起きている。
- 以前は他の病院のことに口を出すと怒られた。いまは「何とかしなければ」という共通理解がある。「自主的に動くかどうか」ではなく「動かざるを得ない」。「条件は揃った」ので、この1〜2年で動くことが望まれる。
小林大介(滋賀医科大学)「新たな地域医療構想を踏まえた、今後の持続可能な医療提供体制」
アドバイザーの仕事
- ガイドラインが地域医療構想アドバイザーに求めるのは、データの整理と論点の提示、ファシリテーションを通じて協議を活性化すること。
- 旧構想では「病床の必要量」ばかりが注目され、特に公立・公的病院の急性期病床を削ることが目的だと取り違えられた。本来の「地域で必要な需要と供給をどうするか」まで議論が進まない地域が多いまま、2025年を迎えた(抄録)。
富山県の例:構想区域の見直し
- 富山県の人口は約100万人(すでに割り込んでいる)で、4医療圏に分かれる。新川と砺波は約10万人で、目安の20万人を大きく割る。高岡は30万人弱で、2040年には20万人台前半になる見込み(数値は要確認)。
- 「富山を東西の2つに分けてもよいのでは」と言うと、かなり荒れる。
- DPCで患者の流れを見ると、新川から富山医療圏への流出は全体で約5%だが、手術のある症例に限ると約20%。高岡も同じく約20%。
- 高岡医療圏の射水市は富山市に隣接しており、疾患によっては40%以上が富山医療圏に流れる。理由は2つある。
- 川(庄川)による歴史的な生活圏の分かれ
- 病院の大学系列(射水の市民病院は富山大学系、高岡側は金沢大学系)による紹介の流れ
医療圏の線引きを見直す必要があるかもしれない。
急性期拠点の目安と「件数の中身」
- 病床機能報告のデータで「全身麻酔手術1,200件以上・救急車2,000件以上」という目安を当てると、該当するのは富山医療圏の病院だけになる(目安は他大学の研究者がウェブで公開しているもの。出典名は要確認)。
- ただし件数だけで見るのは危ない。救急車の受入件数が中位の病院では、75歳以上が4割を超える。本来は高齢者救急として受けるべき症例が含まれている。
- 富山県の救急搬送の推計はほとんどの病院で増えるが、増えるのは心不全・脳卒中・誤嚥性肺炎など高齢者の症例。3〜4番手の病院はむしろ高齢者救急に専念するほうが、地域の受入体制を保てる。
- 増加が見込まれるのは大腿骨骨折・肺炎・誤嚥性肺炎・尿路感染症・心不全・脳卒中。乳がん・子宮頸がん・肺がん・白内障・消化器の良性疾患の手術は、減るか横ばい(抄録)。
南砺市の例:再編は決めるまでに時間がかかる
- 南砺市には南砺市民病院と公立南砺中央病院の2つの公立病院がある。どちらからも約20分で市立砺波総合病院に行ける近さ。南砺市民の入院の3割は砺波総合病院に行っている。
- 中央病院は整形外科が強く、市民病院は幅広く診る。だが同じ疾患を両方で診ていて、分散して非効率になっている可能性が高い。2040年には増える疾患がほとんどなく、減る疾患が多い。「急性期がメイン」と言っている病院ほど患者が減る見通し。
- 市議会で説明すると紛糾した。だが先週金曜日に、南砺市民病院の再編が議会で決まった(再編の具体的な形は要確認)。小林氏が説明してから1年、議会の特別委員会ができてから1年半かかった。決めた後の実行はさらに大変で、2040年はあっという間に来る。
撤退で利益率を上げる
- 新しいことを始めて少しでも利益を増やそうと考えがちだが、そうではない。ある機能を向こうの病院に寄せて自院はやめると、収益は減るが効率は上がる。それが地域にとってよいこともある。
- 体重のたとえ:体重100kg・体脂肪率35%の人は、脂肪35kg・それ以外65kg。75kg・体脂肪率15%に痩せると、脂肪約11kg・それ以外約64kg。それ以外の重さ(=利益)はほとんど減らず、体は健全になる。どちらがよいかと聞けば、みな痩せたほうを選ぶ。経営は営み続けることが目的で、一時の利益の最大化ではない。
- これまでは「何かを入れる → 患者が増える → 収益が上がる」という右上がりを狙ってきたが、利益は上がらなくなった。「やめると収益は減るが効率は上がる」点が、撤退を考える一つの基準になる。
- 高額医療機器(手術支援ロボット)は危ない。医師確保のためにロボットを入れる病院が多い(ロボットが無いと研修医が来ない)。富山県でも、1台ずつ入れた病院どうしで件数がまるで違う。隣の病院が入れたからうちも、と入れて、ほとんど使われていない例もある。
- 神戸市では放射線治療を1か所に集約し、日赤は装置の更新をやめることで経営を安定させた(地域医療連携推進法人の枠組みか。要確認)。
- 大学から急性期拠点へ、拠点から地域急性期の病院へ、と医師を送る連携で、地域の医療を守る。
- 「地域全体で一つの病院を経営しているような感覚で、他の病院をライバルではなく仲間と考える」。
講演で紹介された資料:地域医療構想策定ガイドラインの要点
- 医療機関機能は5つ。高齢者救急・地域急性期と急性期拠点を、同じ病院が両方報告することはできない。
- 急性期拠点は人口20万〜30万人に1か所が目安。選ぶときに見るもの:
- 全身麻酔手術・緊急手術・救急搬送受入の件数
- 人材確保の見込み
- 建物の築年数と経営状況
三次救急や災害拠点の指定があるだけでは選ばれない。
- 急性期拠点は、他の病院が担うべき高齢者救急を必要以上に受けず、ダウンサイズすることを求められる。
- 病床機能の「回復期」は「包括期」に変わる。75歳以上で急性期とされてきた患者は、半分を包括期の需要として推計する。
- 必要病床数の計算に使う稼働率は、高度急性期78%・急性期83%・包括期87%・慢性期92%。ここに効率化の分(急性期系+1%、包括期+2%)を上乗せする。